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大阪地方裁判所 昭和43年(行ウ)797号 判決

大阪市東住吉区瓜破東之町一四四八番地

原告

中川修

右訴訟代理人弁護士

林伸豪

石橋一晁

川浪満和

服部素明

柴山正美

香川公一

大阪市東住吉区中野町一三三番地

被告

東住吉税務署長

佐竹三千雄

大阪市東区大手前之町

被告

大阪国税局長

山内宏

右被告両名指定代理人大蔵事務官

西本秋男

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

稲葉修

右指定代理人大蔵事務官

松原二郎

右被告三名訴訟代理人弁護士

田浦清

同指定代理人検事

岡準三

同訟務専門職

中山昭造

同大蔵事務官

吉田周一

安久武志

右当事者間の更正処分取消等請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 被告東住吉税務署長が昭和四一年一一月八日付でした、原告の昭和四〇年分所得税の総所得金額を二二一万〇、四五〇円とする更正のうち、一二七万七、五〇〇円を超える部分を取消す。

2. 被告大阪国税局長が昭和四三年七月六日付で、前項の更正に対する原告の審査請求を棄却した裁決を取消す。

3. 被告国は原告に対し、五万円およびこれに対する昭和四三年一〇月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

4. 訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに3.につき仮執行の宣言。

二、請求の趣旨に対する被告らの答弁

主文同旨の判決並びに請求の趣旨3.について仮執行の宣言が附される場合には、担保を条件とする仮執行免脱の宣言。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 原告は牛乳販売業を営む者であつて、大阪市東住吉区内の零細商工業者が自らの生活と営業を守ることを目的として組織した東住吉商工会並びに大阪府下の各商工会の結集した大阪商工団体連合会の会員であるが、昭和四一年三月一五日被告東住吉税務署長(以下、被告署長という)に対し、昭和四〇年分所得税につき総所得金額を一二七万七、五〇〇円、所得税額を一五万六、七五〇円として白色申告書による確定申告をしたところ、被告署長は昭和四一年一一月八日、総所得金額を二二一万〇、四五〇円、所得税額を四二万六、八〇〇円とする更正並びに過少申告加算税一万三、五〇〇円を賦課する決定をし、同月九日その旨原告に通知した。

2. そこで、原告は同年八月三一日、右処分につき被告署長に対し異議申立てをしたが、右申立ての日の翌日から三か月を経過する日までに決定がされなかつたため、右申立ては昭和四二年三月二日付で被告大阪国税局長(以下、被告局長という)に対する審査請求とみなされ、同局長は昭和四三年七月六日、原処分の一部を取消して総所得金額を一九九万二、六六一円とする旨の裁決をし、同日原告にその旨通知した。

3. しかし、被告署長のした本件更正には、次の違法がある。

(一)  本件更正通知書には理由として国税通則法第二四条の規定によると記載されているのみで、その後の審査請求に対する裁決によつても更正の理由は未だ明らかでなく、これは不服審査制度における争点主義に違反する。

(二)  国税通則法第二四条によると、更正は調査に基づきなされるべきものであり、かつ右調査は納税者の生活と営業を不当に妨害することのない適正なものであることを要求されるところ、被告署長は原告に対し不当な調査をし、かかる不当な調査に基づいて本件更正をした。

(三)  更正は適正かつ平等にされなければならないのに、被告署長は、原告が商工会々員である故をもつて、他の納税者とは差別的にかつ商工会の弱体化を企図して、本件更正をした。

(四)  原告の本件係争年分の総所得金額は一二七万七、五〇〇円であり、本件更正は原告の所得を過大に認定している。

4. 被告局長は、被告国の公権力の行使に当る公務員であるが、原告の前記審査請求に対する審査を行うについて、通常六か月、最大限度一年で裁決をすべきであつたにかかわらず、故意に一年四か月間も放置してこれを遷延させ、速やかな行政救済をうけるべき原告の権利を侵害し、金銭的に評価すれば五万円を下らない無形的損害を原告に与えた。

5. よつて原告は、被告署長に対して本件更正の取消しを、被告局長に対して本件裁決の取消しを、被告国に対して五万円とこれに対する不法行為の日の後である昭和四三年一〇月二五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める。

二、請求原因に対する被告らの答弁

1. 請求原因1.のうち、原告がその主張のような東住吉商工会および大阪商工団体連合会の会員であることは不知、その余は認める。

2. 同2.は認める。ただし、原告の被告署長に対する異議申立ての日は、昭和四一年一二月一日である。

3. 同3.は、(一)のうち更正通知書に原告主張のとおりの理由を記載したことは認めるが、その余は争う。

4. 同4.のうち、被告局長が被告国の公権力の行使に当る公務員であり、原告の審査請求に対して約一年四か月後に裁決をしたことは認めるが、その余は争う。

三、被告らの主張

原告の昭和四〇年分の総所得金額およびその内訳は次のとおりであり、その範囲内でなされた本件更正(ただし、前記裁決により一部取消された後のもの)は適法である。

1. 売上金額((一)-(二)) 三、二四〇万九、五三三円

(一)  売上総収入金額 三、三四八万四、五五三円

(1) 小売分(明細は別表1のとおり) 一、五二七万六、七一六円

(2) 卸売分(明細は別表2のとおり) 一、八二〇万七、八三七円

なお、期首、期末のたな卸高については、明らかでないので、期首、期末とも同額とみなし、昭和四〇年中の仕入数量を販売数量とした。

(二)  盗難、破損等による控除額 一〇七万五、〇二〇円

(1) 盗難等による控除額 一四万六、〇〇〇円

(2) 破損による控除額 八五万六、〇二〇円

(3) 顧客サービスによる控除額 七万三、〇〇〇円

2. 雑収入金額 二一万二、八五〇円

3. 必要経費 二、九七九万二、八三五円

(一)  仕入金額(明細は別表3のとおり) 二、三六四万九、七三二円

(二)  公租公課 一一万九、六〇〇円

(三)  水道光熱費 八万七、七四一円

(四)  旅費通信費 四万四、四七四円

(五)  広告宣伝費 一万四、五〇〇円

(六)  接待交際費 六万円

(七)  修繕費 六五万二、一二〇円

(八)  消耗品費 六七万九、三四七円

(九)  福利厚生費 一六万六、四八〇円

(一〇)  雑費 三九万九、一一〇円

(一一)  減価償却費(建物以外) 九二万七、九三一円

(一二)  雇人費 二七九万二、〇〇〇円

(一三)  減価償却費(建物) 一万五、三〇〇円

(一四)  地代家賃 七万二、〇〇〇円

(一五)  専従者控除 一一万二、五〇〇円

4. 譲渡損失 五二万九、九五〇円

5. 総所得金額 二二九万九、五九八円

四、被告らの主張に対する原告の認否等

1. 被告らの主張1.(売上金額)のうち、(一)(売上総収入金額)は争い、(二)(控除額)を認める。

同2.(雑収入金額)は認める。

同3.(必要経費)のうち、(一)(仕入金額)のうちの仕入本数、仕入単価は認める。その余の必要経費については、(四)、(五)、(八)ないし(一〇)(旅費通信費、広告宣伝費、消耗品費、福利厚生費、雑費)は争い、その余を認める。

2. 売上金額の算定にあたつて、売上総収入金額から控除されるべき金額として、被告ら主張のもの(1の(二))の他に、自家消費分につき販売価額と仕入価額との差額(所得税法第三九条の総収入金額に算入する資産の価額に相当する金額とは、販売価額に相当する金額ではなく、仕入価額に相当する金額のことをいうと解すべきである。けだし、右のように解さないと、販売による利益がないのに、利益をあげたものと擬制して課税することになるからである)、および従業員の消費分が計上されるべきである。

第三、証拠

一、原告

乙第二ないし第六号証の成立は不知

二、被告ら

1. 乙第一ないし第六号証を提出

2. 証人福西喜博の証言を援用

理由

一、請求原因1.のうち原告が東住吉商工会および大阪商工団体連合会の会員である点を除くその余の事実、並びに、2.のうち被告署長に対する異議申立ての日の点を除くその余の事実および原告が昭和四一年一二月一日までに右異議申立てをしたことは、当事者間に争いがない。

二、被告署長に対する請求について

1. まず、本件更正の手続上の瑕疵につき検討する。

(一)  本件更正には更正の理由として国税通則法第二四条の規定によると記載されているのみであることおよび原告が白色申告書によつて本件係争年分の確定申告をしたことは、当事者間に争いがない。

ところで、所得税法第一五四条第二項は、更正により課税標準および税額等がいかに変動したかを明瞭にするため、更正通知書に国税通則法第二八条第二項各号所定の事項を記載するほか、更正にかかる総所得金額等についての所得別の内訳を附記すべきものとし、青色申告書にかかる年分の総所得金額等の更正をする場合については、所得税法第一五五条第二項が右附記事項に加えて更正の理由をも附記すべきものとしているが、白色申告については、納税者に青色申告者のごとく記帳およびその保存を義務づけていないと同時に、これに対する更正の場合に右のような理由附記をなすべき旨の規定もないから、更正の理由を知りうることが納税者にとつて望ましいことであるとしても、その記載がないことをもつて当該更正を違法とすることはできない。

(二)  被告署長が不当な調査をし、また商工会の弱体化を企図して差別的に本件更正をしたとの点については、本件全証拠によつても、これを窺うことができない。

2. 次に、原告の本件係争年分の総所得金額について判断する。

(一)  売上金額について

(1)  証人福西喜博の証言によれば、原告は昭和四〇年分の取引について記録を残していないことが認められ、したがつて、右年度における原告の営業の期首、期末のたな卸高を明らかにする資料は存在しないのであるが、原告が昭和四〇年中に仕入れた商品の種目が別表3の区分欄のとおりであることは当事者間に争いがないところ、右商品はいずれも生鮮飲料あるいはそれに準ずるものであつて、仕入後速やかに販売されることを予定しているものであるから、原告が同年中に販売した商品は、同年中の仕入商品にほぼ一致するものと推認することができる。

次に、証人福西喜博の証言によつて真正に成立したと認められる乙第二ないし第五号証および右証言によれば、原告は仕入商品について小売と卸売とをしており、その各商品ごとの比率は別表4のとおりであることが認められ、仕入商品の数量が別表3の本数欄のとおりであることは当事者間に争いがないから、右比率に従い各商品の小売、卸売別の販売本数を求めると、別表1、2の本数欄のとおりとなる。また、右各証拠によれば、各商品の小売、卸売別の単価は、それぞれ同表1、2の売上単価欄のとおりであることが認められるから、仕入商品がすべて売れたとすると、各商品ごとの売上金額は同表1、2の売上金額欄のとおり(ただし、円未満切捨て)となり、小売分の合計が一、五二七万六、七一六円、卸売分の合計が一、八二〇万七、八三七円で、売上総収入金額は三、三四八万四、五五三円となる。

(2)  売上金額の算定にあたつて、盗難、破損等のため、前項の売上総収入金額から少くとも一〇七万五、〇二〇円が控除されるべきであることは、当事者間に争いがない。

ところで、所得税法第三九条は、たな卸資産の自家消費分について、その価額に相当する金額を事業所得の計算上総収入金額に算入する旨規定するところ、原告は、右規定にいう価額とは販売価額でなく仕入価額を指すと解すべきであるから、本件において、自家消費分については販売価額と仕入価額との差額を前項の売上総収入金額から控除すべきであると主張するので、判断するに、右の自家消費分がいかほど存在するかについては明らかでないが、それはともかく、たな卸資産を自家消費した場合には、顧客に販売したのではないから、現実に収益が生じているものではないのに、右規定がこれを総収入金額に算入すべきものとしているのは、たな卸資産は通常販売価額で譲渡されるものであつて、自家消費の場合にも、経済的には、当該商品を顧客に販売したうえ、右売上金で同一商品を他の販売業者から購入した場合とその効果を一にするからであると解される(右の場合に、販売価額による売上収入があつたものとされることは明らかであろう)。したがつて、所得税法第三九条の資産の価額とは、原則として、通常の販売価額を指すものと解すべきであるから、原告の主張は失当である。

また、従業員の消費分についても、右に説示したところと同様に解すべきであり、ただ、それが同法第三七条第一項所定の費用に該当すれば、同額が必要経費として計上されることになるのである。

(3)  以上によれば、原告の昭和四〇年中の売上金額は、(1)の三、三四八万四、五五三円から(2)の一〇七万五、〇二〇円を控除した三、二四〇万九、五三三円となる。

(二)  原告が昭和四〇年中に、二一万二、八五〇円の雑収入金額を得たことは、当事者間に争いがない。

(三)  仕入金額について

原告が昭和四〇年中に仕入れた商品の商品別仕入本数および仕入単価が別表3の本数欄、仕入単価欄のとおりであることは、当事者間に争いがない。したがつて、各仕入本数に各仕入単価を乗じて仕入金額を求めると、その合計は同表5のとおり(ただし、円未満切上げ)二、三六四万九、七四〇円となる。

(四)  その他の必要経費について

(1)  次の各経費については、当事者間に争いがない。

公租公課 一一万九、六〇〇円

水道光熱費 八万七、七四一円

接待交際費 六万円

修繕費 六五万二、一二〇円

減価償却費(建物以外) 九二万七、九三一円

雇人費 二七九万二、〇〇〇円

減価償却費(建物) 一万五、三〇〇円

地代家賃 七万二、〇〇〇円

専従者控除 一一万二、五〇〇円

(2)  証人福西喜博の証言によつて真正に成立したと認められる乙第六号証および右証言によれば、(1)の各経費の他に、次の各経費が認められる。

通信費 四万四、四七四円

広告宣伝費 一万四、五〇〇円

消耗品費 六七万九、三四七円

福利厚生費 一六万六、四八〇円

雑費 三九万九、一一〇円

(3)  以上によれば、仕入金額を除くその他の必要経費は、(1)(2)の合計六一四万三、一〇三円となる。

(五)  弁論の全趣旨によれば、原告の昭和四〇年中の譲渡損失は五二万九、九五〇円であることが認められる。

(六)  以上の事実によれば、原告の本件係争年分の総所得金額は、売上金額三、二四〇万九、五三三円と雑収入金額二一万二、八五〇円との合計額三、二六二万二、三八三円から、仕入金額二、三六四万九、七四〇円、その他の必要経費六一四万三、一〇三円、譲渡損失五二万九、九五〇円を差引いた二二九万九、五九〇円となり、被告署長の本件更正における認定額(ただし、本件裁決により一部取消された後のもの)を下廻らないこととなる。

三、被告局長に対する請求について

本件裁決の瑕疵については、原告は何ら主張しないので、被告局長に対する請求は失当としてこれを棄却する外はない。

四、被告国に対する請求について

被告局長が被告国の公権力の行使に当る公務員であり、原告の審査請求に対して約一年四か月後に裁決をしたことは、当事者間に争いがない。

ところで、行政不服審査法第一条第一項は、行政不服審査制度が迅速な手続により国民の権利利益の救済を図ることを目的とするものであることを明らかにしているが、審査請求の日から裁決までに一年四か月を要したというだけで、直ちに被告局長の所為が同条に違反し、違法であると即断することはできない。被告局長において、既に裁決をなし得る状況にあるのにことさら裁決を遅らせたり、あるいは、いたずらに事件の処理を放置し、そのために前記制度の趣旨が損われる程度に著しく裁決の遅延をみるような場合には、被告局長の所為は行政不服審査制度を設けた趣旨に反するものとして違法となることがあると解すべきであるけれども、本件全証拠によつてもそのような事実は認め難いから、被告局長の所為を違法とすることはできない。

五、以上の事実によれば、原告の本訴請求はいずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川恭 裁判官 鴨井孝之 裁判官大谷禎男は差支えのため署名押印することができない裁判長裁判官 石川恭)

別表1

小売分

〈省略〉

別表2

卸売分

〈省略〉

〈省略〉

別表3

仕入金額

〈省略〉

〈省略〉

別表4

〈省略〉

別表5

〈省略〉

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